2022.4.22 相談による解決事例のご紹介です。

事案の概要

Iさんは「相続税対策になる」「3年後に休みにすれば掛金が返ってくる」との説明を受けて終身の生命保険を契約しましたが,かんぽ生命被害対策京都弁護団に相談したところ,これらの説明が事実とは異なることが判明したため,弁護団の弁護士と相談しながらかんぽ生命との交渉を進め,その結果,Iさんは,これまでに支払った保険料の返還を受けることができました。

事案の内容

1 勧誘を受けるまでの状況

Iさんは,もともと郵便局で定期貯金をしており,郵政民営化によってゆうちょ銀行となった後も含めて,合計40年間くらいの間,定期貯金を続けていました。

このように長い間,定期貯金を続けていたため,Iさんは,郵政民営化前には,勧誘を受けて簡易保険に加入したこともありましたが,保険の内容としては満足できるものでした。

 その後,平成28年ころ,定期貯金が満期になったときに,いつもの郵便局の担当者とは違う新しい担当者が生命保険の勧誘に来ました。

2 勧誘の内容

Iさんは,新しい担当者から,「相続のときに節税対策になる」「死亡のとき500万円が受け取れる」「3年間かけておいて,解約と言わずに,一時お休みすると言って,医療特約だけ継続して欲しい」「そのときに掛金が返ってくる」などと言われました。

Iさんは,かつて加入していた簡易保険でも問題が生じたことはありませんでしたので,これまでどおり問題の無い保険だと考えており,担当者の説明をそのまま信じて,相続税を節税することができ,「掛金」として支払った保険料も戻ってくると思い,勧められた内容で,担当者から言われたとおりに書類に署名して,保険の契約をしました。

今から考えれば,返ってくると言われた掛金は,解約返戻金のことだと思われますが,このとき,解約返戻金が支払い済み保険料を下回りかもしれないという説明は全くありませんでした。

3 その後の対応と問題の発覚

Iさんは,その後,保険証券が届いた時点で,やっぱり契約をやめたいと思い,担当者のいる郵便局に電話しましたが,電話に出た職員から,「解約はできない」と言われてしまいました。

そのため,Iさんは,年間で70万円強の保険料を,3年間支払っていましたが,マスコミ報道でかんぽ生命の問題を知り,自分のときも問題のある勧誘が行われていることを知りました。

Iさんは,弁護団所属の弁護士の事務所に来所され相談をされました。

4 弁護団での相談

相談の際に,「かんぽ生命被害対策京都弁護団」所属の弁護士がIさんから詳しい事情を伺ったところ,Iさんの場合には生命保険に加入しても相続税対策にはならないこと,担当者が説明していたとおりに手続を行っても,支払い済み保険料の全額が返ってくることはないことが分かりました。

生命保険を勧誘,販売する場合,事実と異なる説明をしてはいけませんし,Iさんがどのような保険に入りたいと考えているかを確認した上で,Iさんの意向に適した保険を販売しなければなりませんが,担当者はこれらの義務に違反して,Iさんに生命保険を契約させたものと考えられました。

しかし,Iさんとしては,できるだけ穏便に問題を解決したいと考えており,当時,解約した場合の返戻金をかんぽ生命に確認中であったことや,かんぽ生命からも調査のための連絡が来る予定であったことから,その推移を見てから,弁護士に依頼するかどうかを決めることになりました。

5 問題の解決まで

Iさんは,かんぽ生命から送付されていた調査のためのハガキの書き方について,弁護士から説明を受けて,ご自身の被害の内容を正確に記載して提出しました。

その後も,かんぽ生命からは問合せの電話などがありましたが,Iさんは,その都度,弁護士と相談しつつ,どのように対応をするべきか検討し,かんぽ生命に正確な説明を行いました。

その結果,かんぽ生命からは,今回の保険契約が最初からなかったものとして精算したいとの申出があり,Iさんは,弁護士と相談の上,その申出を受け入れ,これまで支払った保険料を返還してもらうことができました。

事案の解説

Iさんの場合,①相続税対策になること,②保険を休止または解約すれば払い済み保険料が戻ってくることを説明され,それが原因となって,終身の生命保険を契約されていました。

確かに,生命保険は,相続税対策として利用されることもありますが,通常は,遺産となる財産の総額や相続人の人数,様々な控除制度など検討しなければ,本当に相続税対策として効果があるかどうか分からないといえます。

Iさんの場合,担当者はこのような検討をするために必要な事実をIさんから聴取した形跡はありませんでしたし,担当した弁護士の目から見る限り,Iさんは生命保険による相続税対策が必要ではない状態でした。

また,保険料が戻ってくるかどうかについても,確かに生命保険を解約すれば,解約返戻金が支払われる場合もありますが,多くの事例で解約返戻金は支払い済み保険料の総額を下回りますし,Iさんが受けた説明のような短期間での解約であれば,解約返戻金は支払い済み保険料の総額を下回ることはほぼ確実と考えられました。

 生命保険会社や,生命保険の募集を行う担当者(生命保険募集人といいます)は,保険業法という法律によって,事実と異なる内容を説明してはいけませんし,重要な事項について事実を説明しないということがあってもいけません。また,生命保険会社や生命保険募集人は,顧客の意向を把握して,これに沿った保険契約を提案しなければならないと定められています。

 Iさんの場合も,このような法律上の義務がきちんと守られていなかったために,問題が発生しました。Iさんの被害は,かんぽ生命が特定事案調査の対象とする類型ではありませんが,勧誘や契約の問題の程度では遜色がないと思われます。

 Iさんの場合は,幸いにも,弁護士が代理人となってかんぽ生命と争うところまで進まずに,このような法律違反の問題があることを,Iさんが弁護士からの説明に基づいて,かんぽ生命に直接,正確に回答し,事実関係の説明を行い,問題を解決することができました。

 一般の方が,いきなり事実関係を正確に説明したり,どのような法律上の問題が存在するか把握したりすることは,非常に困難です。

 例え,弁護士に交渉や裁判を依頼するつもりがない場合であっても,相談して頂ければ,弁護士が事実関係を整理し,法律上の問題を指摘して,回答するべき内容を助言することができますので,お困りの際は,ぜひ,かんぽ生命被害対策京都弁護団にご相談下さい。

 


投稿者: 弁護士住田浩史

弁護士住田浩史(京都弁護士会)

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